チョコレート作りは、温度加減が大切。
温度計片手に、テンパリングに集中するわたし。

バニラエッセンスはきつすぎないように、ほんのちょっぴり香りがつく程度に。

恋するハート、きらめきのお星様、シャープなダイヤと優しいお花の形。
いろんな形の方に、とろとろのチョコレートを流し込み、後はゆっくり冷やすだけ。

 

「よし、できた!!」

 

わたしは、思わずガッツポーズ。


とうとうできた、ついにできた。


わたしの初めての、手作りチョコレート。


もちろんこれは、明日のバレンタインデーに向けた、わたしの大切な贈り物。
わたしがマネージャーをしている野球部の、カッコイイ主将にあげるチョコレート。

さて、後は仕上げを残すのみ。
さっきまで見ていた、チョコレートの作り方マニュアルを片づけて、今度はとっておき、『妖精さんのおまじないBOOK』を取りだした。
そう、あとは、私の気持ちが主将に届くように、とびっきりのおまじないをかけるのよ!


さてさてそれでは、ぱらぱらとページをめくる。

『好きな男の子と仲良くなれるおまじない』

あったあったありました。やっぱりポピュラーな願い事だから、ズバリ適切なおまじないが用意されている。
わたしは何度も何度も繰り返し、そのおまじないのやり方を読み込んでいく。

この間、奇跡的に見つけた、ドングリの実。
季節外れにもほどがあるこの幸運物質は、きっと妖精さんが私の恋に肩入れしてくれてる証拠に違いない。

・・・よし、これでOK!

後は早く寝て、明日早起きしなくちゃ!



 


「・・・・・・ね、おきて、おきてよ〜っ」

微睡みの中からわたしが、小さな声に呼び起こされる。
ぱちりと目が覚めた。

「あ、やっとおきてくれた!」

夢かと思って目を擦ってみたけれど、夢じゃない。

「初めまして、わたし、ドングリの妖精クロトクリン。よろしくね!」

そう言って元気に挨拶したのは、身の丈10センチほどの小さな女の子。
ドングリみたいな帽子に、透明に輝く羽を持った、小さな妖精さん。

 

「よかった、わたしが見えてるみたいね?」

妖精さんが、小さな胸をホッとなで下ろしながらそう言った。
わたしはまだ、この不思議な出来事に圧倒されて固まったままだったけど。

そうするとその妖精さん、クロトクリンは、固まってるわたしに続けて話しかけてきた。

「わたしの姿が見える、ってことは、あなたは本気で『妖精』を信じてるってことね。
 うん、そうでないと、わたしが力を貸してあげる甲斐もないってものだわ」

妖精さんの話を総合すると、どうやら彼女は、普段から妖精さんを信じているわたしのことを気に入ってくれて、そして友達になろうと機会を待っていたみたいなの。
季節はずれのドングリを拾ったのも、そうやってわたしに近づいてきてくれたわけ。
そして、おまじないを叶えてくれるために姿を現して、こうやって目の前にいるらしい。

わたしは、可愛い妖精さんが友達になってくれるってことで、すごく嬉しかった。
だから、少し夜も遅くなってたけれど、妖精さんと友達になるためにたくさんお話をした。
明日チョコレートを渡す大好きな主将のことを話すと、クロトクリンは喜んで協力してくれることを約束してくれた。

 

そして翌日、いよいよ運命のバレンタインデー。

 

 

 


「おちついて、笑顔でお話しすれば、きっと大丈夫よ!」

クロトクリンが、わたしの耳元にささやきかける。
わたしは肩の上に妖精さんを乗せたまま、学校への道を歩く。鞄の中にはちゃんと昨日作ったチョコレート。
もう少しで、主将が通る通学路と合流する。

さぁ、いよいよだ。

「主将、おはようございます!」

「ああ、おはよう」

主将に朝の挨拶。いつものように、さわやかな笑みでわたしに挨拶を返してくれた。


さぁ、いよいよ、チョコレートを渡すのよ!!

「がんばって、さぁ!」

肩の上の妖精さんも、わたしを励ましてくれる。
わたしは鞄の中に手を入れて、準備していたチョコレートを取り出そうと・・・・・・

「うおっ!!」

急に主将が驚いた声を上げた。

「こ、これは・・・・・・」

がくがくと震えだした主将。
え? わたしがチョコレートを渡すのって、そんなに驚くようなこと?
鞄から取りだしたチョコレートを、ちょっと戸惑いながらわたしは主将に差し出した。

主将は、ゆっくりと手を伸ばし、わたしのチョコレートを・・・・・・


 
・・・・・・手に取らずに。

「ほ、本物だ!!」

がっし、と、わたしの肩の上にいる妖精さんを掴んでいた。

「やった! 俺が信じていたとおり、妖精さんは実在したんだ!!」

「え?」
「え?」

わたしとクロトクリン、同時に漏らす、呆気にとられたような驚きの声。
主将はそんなわたしに目もくれず、クロトクリンを自分の手元に抱き寄せた。

「ああっ、これで念願の、妖精さんと過ごす、愛と肉欲の毎日が〜!」

そうして主将は、幸せそうな顔をして、妖精さんを抱き寄せたまま今きた道を引き返していきました。
クロトクリンは逃げ出せないまま、たーすーけーて、と悲鳴をドップラー効果で残していきます。


つまり主将は、わたしと同じように妖精さんを信じていた人だったって訳で。

まさかその妖精さんに、好きな男の人を取られちゃうなんて。

 

そしてわたしは、渡せなかったチョコレートをぽとりと手から落とし。

一人ぽつんと取り残されました。

 


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