おれが昔、映画『蒲田行進曲』を見たときは、
「うわー、『階段落ち』、大変だなぁ、痛そう」
と、思ったもんだ。
時代劇の役者さんが、撮影のために作られた舞台セットの、一階から二階につながる木製の大きな階段をさぁ、
転げ落ちる演技をしなくちゃいけないわけよ。
考えただけでも痛くなってくるよ。いいか? その一番上の二階から一番下の一階まで、
ごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろ、と、転がり落ちていくんだぜ?
あれは、並大抵の痛さじゃねーよ、多分。
だってさぁ、たいていの階段はステップの角がとがってるじゃん。
刃物のようにとがってるわけじゃないけれど、それでも90度に切り立ったステップの角に落下するのは、
ものすげー痛いんじゃないかな。
相手は毎日毎日人間様に踏んづけられて過ごしている階段様だ。
仮にそれが舞台セットであっても、人が登る以上は当然頑丈に出来てる。
豆腐みたいに柔らかい訳はない。
その、固い階段の角が、落下した身体に、ごん、とブチ当たるわけだ。
そのまま転がりながら、ごろんごん、ごろんごん、ごろんごん、と身体に角をぶつけながら下りていく。
死を覚悟しつつもやり遂げた、役者さんは凄いよ。


え? なんで階段の話ばっかりしてるのかって?


そりゃもちろん。
まさしく、いま、おれが落ちるところだからさ。
階段を。

・・・

人間ってのは凄いもんで。
こうやって『澄香』を助けるために飛び出して、あともさきも考えることなく行動するんだよ。
『咄嗟の行動』ってやつ。
そのときゃぜんぜん考える時間もなにもなく、気が付いたら階段の上空に飛び出して『澄香』を抱きかかえてた。
あ、『澄香(すみか)』ってのは、おれのカノジョ。幼馴染みだったんだけど、つい先日、恋人にクラスチェンジした。

ま、それはおいといて。

山の上にある高校からの帰り道、ショートカットして神社を抜けようとしていたおれ達。
背後から襲いかかったカラスにびっくりした澄香が足を踏み外したのは、運悪く神社の五十段くらいある石階段をちょうど下りようとしていたところ。
こないだ食べたタコ焼きの美味さを、隣に並んで歩いてた澄香に伝えるべく雄弁を振るっていたおれは、僅かに目を離した隙の悲鳴に驚いた。
彼女の悲鳴、カラスの鳴き声。
鳥のはばたき、宙に舞う澄香。
そんな情報が一気に流れ込み、おれの思考は吹き飛んだ。

空中で澄香を抱きかかえ、彼女の頭を守るように腕を回す。
頭から落ちると多分即死コースだから、身体を横にして、階段を転がり落ちる風景をイメージ。

この、飛び出してから落下するまでが異常に長く感じられてしまう。
おかげで、実際に転がる前から階段の痛さを想像して悶絶しそうになる。
それともこれがいわゆる走馬灯ってやつ? ぞっとしねェな。
どっちかっつーと、精神が研ぎ澄まされてオーバードライブしてる感じか?
スポーツ選手や格闘家達の、一秒が何秒にも感じられる、集中力の世界。
いっそこのまま止まった時間の世界に入門させてくれれば万事解決なんだけど、
残念ながらそんな超能力は持ち合わせちゃいない。

・・・っと、ながながとどーでもいいことを考えたけど、さすがに限界。
階段に落下だ。
できれば五十段までといわずテキトーなところで止まりたい。
でも、澄香を護るのが最優先だ。
根性決めろ、俺。

どさごろごろごろごろごろごろごろ・・・・・・・・
ごんがんがんごんごんごんどすどさごんがんがんがんどてぽきぐしゃ・・・・・
いでででででででででででででででででででででででででででェよ痛てェ・・・・・!!!

死ぬ!死ねる!!ヤバイ!!これヤバイよこれ!!!
ぎゃあーーーーーーーーーっ!!!

・・・・
・・・
・・



死んでない。
死んでないけど。

あー、痛かった。
つーか、まだ痛い。
いや、ますます痛くなってきた。

けど、思ったほどじゃねーな。
背中打って痛てーのと、足打って痛てーのくらいか。
結構頑丈だな、おれ。
ま、とにかく、頭とか首とかヤバめのところは大して痛くないから一安心だ。
や、それよりも澄香だ!! あいつはどーなった!?
う、ヤバイ、気が遠くなってきた。
た、たのむ、だれか、おれはいーから、澄香を病院に・・・

・・・・
・・・
・・



おれが目を覚ますと、傍に澄香のかぁちゃんがいた。
良かった、怪我もたいしたことなくて、と、おれに抱きついてきた。
おばさん、おれよりも澄香の心配してやれよ、とおれが突っ込む前におばさんが言った。
あの子がお前を庇ってくれたんだよ、そういって、隣のベッドに寝ている、包帯とギプスだらけのミイラ男を指差した。
なんだ、おれじゃん。

・・・って、おれーーーーーーーーーーっ!?

何でおれがそんなところで寝てるんだよ!!
じゃあおれはいったい誰なんだよ!!
澄香は? 澄香はどーなったんだよ!!
そしてベッド脇の鏡に澄香の姿を発見した。

・・・って、澄香ーーーーーーーーーーっ!?

おれが、自分を見ているはずの鏡には、澄香が映っていた。

ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!



なんのことはない。

おれが深作欣二監督の「蒲田行進曲」と思っていたのは、実は大林宣彦監督の「転校生」だった、というわけ。

おれの意識は『澄香の身体』に入り込み、澄香の意識はどうやら『おれの身体』に入り込んでいるらしい。

いったい、何の冗談だよ、これ。

・・・

『おれの身体』はどうやら大怪我のようで。
幸い事故の目撃者もいて通報が早く、大事には至らなかったが、それでも腕やら足やらあちこちの骨が折れてたらしい。
意識も、わずか一瞬だけ取り戻したが、麻酔やらなんやらですぐに眠りについたんだそうな。

でもま、安心したぜ。
後遺症の残るような怪我ではないそうだし、じっくり直せば問題ない、と医者は言っていたからな。

『澄香の身体』も、ちょっと足に打身がある以外はほとんど掠り傷だ。
よくやった、おれ!!

あとは、精神が入れ替わってるのを元に戻しさえすりゃ、万事解決だ。

・・・でも、気が重いよなぁ。
どうせ、もう一度いっしょに階段転がらないと、『入れ替わり』は戻らないんだぜ?
大体のパターンだったらさ。

少なくとも、『おれの身体』の怪我が治ってからだな。
今のまんま転がったら、おれは帰るべき肉体を永久に失ってしまいかねん。

考えてても仕方がない。
この話は、『おれの身体』に入ってる澄香が目を覚ましてからだ。
それまでおれが澄香のフリをして、なんとかやり過ごそう。



というわけで、やってきました澄香のおへや!!

小さい頃はよく来ていたが、中学に上がる頃には全然来ないようになった。
疎遠になった、とかではなくて、少し大人になった、ってことだろう。
先日、澄香と『恋人』になってから初めてこの部屋に来たけれど、緊張して全然部屋の様子なんて覚えちゃいない。
宿題を写させてもらっていたのだが、相手が好きな異性だったら、そこで緊張しないわけがない。
それにおれ、童貞だしな。
結局その日は何もなく帰ったんだが、そのまま数日間、チャンスがないまま本日に至る、だ。

とにかく、おれは澄香のフリをしたままで、おばさんに促されるままアイツの部屋に入った。
安静に、部屋でおとなしくしているようにきつく言われたので、そのとおりにする。
まぁ、外をうろちょろして、うかつに澄香の友達と出会ったりするよりはマシなんだろう。

よし、それじゃあ寝巻きに着替えて・・・・

・・・って、そういえば。


いまのおれは、澄香の身体なんだ。

おお、気付くのが遅いぞ、おれ!!

つ・ま・り、澄香のハダカ、見放題、触り放題!!!

そーだよ、「転校生」にはこれがあったんだ!!!

怪我をしながらも女の子を護ったおれに、神様がちょっぴりエッチなご褒美をくれた!!!

よーし、ガンガンいくぜ!!!

 

・・・・・・


服を脱いだおれは、イキナリ全裸にはならず、とりあえずスカートだけ脱いだ。
まぁ、シャイな童貞少年には、多少のブレーキも必要なのさ。

そのかわり、足を大きく開いて大股開き。
まぁ、シャイな童貞少年は、興味津々なのさ。

おお、すげぇ、これが澄香のぱんつだよ!!!
なんつーか、ぱんつ越しのマンコの肉が、プニプニとしてて柔らかそうだ〜!!

あー、早く自分の身体に戻って、自分の目で見て直接触りたいぜ〜。
正直、今の澄香のマンコに、今の自分が直接触るのは怖いからなぁ。
だってさ、男のおれがもし、女の快感を覚えちまったら、取り返しつかなくなるような気がしないか?
男の身体に戻ってからも、女の身体特有の快楽を望むようになるなんて、ちょっと怖いぜ。
しかし、こんな神様がくれたチャンス、もう二度とないだろうってのもわかる。
うーむ、迷うなぁ・・・。

よし、触るか触らないかは後にしておいて、とりあえず、さっさと服、ぬいじゃおう。

・・・よし、ブラジャーもとれた!!
初体験でブラの外し方が解からないチェリーの惨劇は免れそうだ。

うう、これが澄香のおっぱいかぁ・・・・。
あいつ、服を着てるときにはほとんど膨らんでないのに、こうしてみると結構でかいよなぁ。
これが着やせという奴か。あなどれん。

うむ、これで澄香の生オッパイを見た男は、おれが初めてっつーことになった!!(父親除く)

・・・・・・初めて、だよな?

なんか、ちょっと不安になった。

たしかあいつ、半年ほど前に、三組の山田にコクられた、って噂がある。

まさかとはおもうけど、そのときに・・・・・・。
もうすでに、山田相手に処女を捨てている、とか。

いや、山田だけじゃない。
澄香は、おれが言うのもなんだが、凄く可愛い。
おれの高校でもファンは多く、こないだの体育祭の写真販売(写真部主催・学校非公認)も、ソッコーで澄香の写真が売り切れたと聞く。
おれが『幼馴染み』という関係でモタモタしている間に、あいつは別に好きな男が出来ていてもおかしくない。

澄香が処女か、非処女か。
今が、それを確かめるチャンスなんじゃないのか?

 

 


・・・・・・・いや、あいつは、おれが告白したときに、『ずっと好きだった』って、言ってくれた!!
おれがそれを信じないでどーすんだ!!


よし、決めた!!!


おれはこれからもずっと、澄香を信じるぜ!!!

あと、とーとつだが、澄香の身体に触るのも決意したぜ!!


よ〜し、触るぜ〜、触るぜ〜、触りまくっちゃうぜ〜♪
ついでにオナニーなんかもしてみちゃおうかな♪


では、早速パンツを下げて・・・

「ダメーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

え?
何?
澄香の声?
あ、視界がだんだんとかすれていく!!

どーなってんだよ、こりゃ!!
え? まさかこれでおしまい?
神様がくれたプレゼントじゃないの?
そーんーなー!!
あーんーまーりーだー!!

そうしておれの視界は、闇に包まれた。







気がつくと、おれは自分の身体に戻っていた。
病院のベッドに固定され、折れた足をギプスで固めて吊るしてある。
おれのかぁちゃんが随分心配してたみたいで、おれが気がつくと大層安心した。

澄香の身体が弄れなかったのは残念だけど、再びあの階段から転げ落ちなくてすんだだけ、マシと考えよう。



翌日、おれに見舞い客が来た。
澄香だ。

澄香はおれを見るなり、じわ、と泣き出し、顔を真っ赤にした。

あー、感動してくれてるな、とか思ってたら。

このスケベ男!! とか怒鳴って、お見舞いのメロンを投げつけてきた。

そして彼女は言った。

私のハダカを勝手に見るなんてヒドイ!!

え! なんでそのことを!と思わず聞いてしまった馬鹿なおれ。

澄香が言うには、おれが澄香の身体に入って動き回っているあいだ、澄香の精神は自分の身体の中で身動きできずに押し込められていたらしい。
そしてその間、おれが考えていることが、全部筒抜けで。
澄香が何度おれに話し掛けても、おれには聞こえていないようで、あくまでも一方的に、おれの心の中が丸見えだったという。
俺と澄香の心は一つになっていたのに、俺だけ目隠しされていたようなものだ。

だが、あんまりおれが恥ずかしいことをするもんで、その羞恥の気持ちが高まったときに、おれが追い出されたんだそうな。

そして彼女は、顔を真っ赤にしたまま帰っていった。

あんまりだ・・・。

神様の、バカヤローーーーーーっ!!
おれ、澄香を助けるために苦労したじゃんか!!
何でそーいう、健気な好青年を虐めるようなことするのかな!?
まさかおれの童貞を大人になるまで守らせて、魔法使いにするつもりか?

ちくしょーっ!もうおれは神様なんて信じねーぞっ!!



ベッドの上で不貞腐れているおれのところに、ナースさんがやってきた。
食事を持ってきた彼女は、ベッドの下に落ちていた手紙を見つけておれに渡してくれた。
澄香からだ。
どうやら、メロンといっしょに投げつけられて、落ちていたらしい。
何とか苦労して手紙を取り出し、読んでみる。

『私を護ってくれてありがとう。』
『護ってもらえて、私はすごく嬉しかった。』
『私のバージンは、ずっとキミのために大切に守ってます。』
『だから、早く怪我を治して、私から受け取ってください。』
『私を信じてくれてありがとう。』
『信じてもらえて、私はとても嬉しかった。』

・・・・・・・・・・・・イヤッホーッ!!!
神様ありがとう、ボクに彼女をくれて!!

おれはギプスに身体を固定されたままで、馬鹿みたいに大笑いした。


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